第二回夏が来れば思いだスペシャル尾瀬にもっとお~ぜ~の観光客を見た!(恐怖の水芭蕉編)

♪夏が来~れば思い出すぅ はるかなマサ~ 遠い出世♪

マサよ、君は雪まだ残る鬱蒼とした山中で遭難の危機に遭遇し、見事に生還を果たすというしぶとさを発揮したことがあるか!?

6月2日(土)

東北自動車道の西那須野塩原インターを降りて国道400号線に入り、さらに121号線を走っているといまいち目的地に向かっていないような感覚に見舞われてふと看板を目にすると反対方向の今市という地名が目に飛び込んできたのであわてて軌道修正し、福島県の尾瀬檜枝岐温泉を目指した。この地域は尾瀬への福島県側の玄関口になっており、ちょうど水芭蕉が見ごろということでどの温泉旅館や民宿も活況を呈している様子であった。

檜枝岐の山間部にモーカケの滝という平安時代の女房の装束である裳を掛けたさまに見立てられた滝を軽く見学した後、今晩の宿を探すべくあたりをさまよっていると「かわせみ」と名乗るスキー民宿に空室ありますという看板を見つけたため、そこにしけこみ、部屋の窓からくもの巣に捕らえられ、もがき苦しんでいるセミを見た後、地元で採れた山菜料理に舌鼓を打ちながら長く暗い夜の時間をやり過ごした。

6月3日(日)

檜枝岐村から山道を登り、御池という尾瀬の玄関口に車を止め、北海道・東北の最高峰であり、日本百名山のひとつに数えられている標高2356mの燧ケ岳の山頂を目指すことにした。尚、事前に尾瀬のホームページで遭難にはお金がかかるという注意事項を読んでいたにもかかわらず、私の身にそのような事態がふりかかるとはこの時点では夢にも思ってなかったのである。

御池の燧ケ岳登山口からすでに勾配は急になり、水芭蕉が咲き乱れるぬかるんだ道を登っていくと登山用の木道は完全に雪に埋もれてしまっていたので登山者の足跡を頼りにゆっくりとした足取りで歩を進めるしかなかった。傾斜角45度くらいに達すると思われる雪道を何とか切り抜けた後、ぱっと雪が消えた木道が目の前に現れ、前方はるかかなたに雪を戴いた燧ケ岳の山頂が視線に入ってきた。

再び雪の急勾配が私の目の前に立ちふさがり、亀のような歩みで進まざるを得なくなった。ふと下を見下ろすと上村愛子や里谷多英がオリンピックのスタート前に見ているであろう急斜面の光景が広がっており、私の目はモ~グルぐる回りはじめている感覚を覚えた。最後の難関の雪道を無事制し、4.5kmの道のりを4時間かけて何とか岩肌があらわになった山頂に到着することに成功すると念願の「エイドリア~ン!」の嬌声をこだまさせようと思ったが、意外にも観客が多かったので断念せざるを得なかった。登頂者は皆登山靴等の山岳装備をしており、「登山靴じゃね~とこの雪道は登り切れね~ぜ」くらいの鷹のくくり方をしやがっていたのだが、私がリーボックの滑りやすいスニーカーでここまで這い上がって来たことには気づいてない様子であった。

山頂から眼下に佇む尾瀬沼を見下ろし、雪に覆われた周囲の山々を見渡しながら30分ほど頂点を極めた満足感に浸りつつ優雅な時を過ごした後、下山の時を迎えることとなった。下山ルートは来るときと比べて楽であるはずの尾瀬沼方面への下山道を選択したもののこれが地獄の一丁目になってしまうとは・・・

午後12時過ぎに下山を開始し、雪で完全に覆われた道を足跡を頼りに抜群のボディバランスと関節の曲げ耐性を駆使しながら、すべるように距離を稼いでいた。FTBが開発したサバイバル術として滑りやすいところはむしろ滑らないようにするのではなく、ふかわりょうのように自分からあえて滑り腰や頭を地面に強く打ち付けないようにするというテクノロジーがある。

森林と若竹の緑と白い雪のコントラストは時に下山者の目を眩ませる。足跡をたどって下りていてもどの方向に行くべきか判断がつかないポイントがいくつもあり、まるでアリ地獄に落ちるように私をあらぬ方向へと誘っていった。気がつくと私の随分前を歩いていた下山者の陰はなく、完全に方向感覚を失ってしまっていたので道なき道を草木をなぎ倒しながら滑り下りるしか選択肢が無くなっていたのだった。

これが遭難というものですか?と聞かれれば「そうなんですよ!」と答えるしかない状況の中で何とか冷静にサバイバル術を考えなければならない。まず、太陽が沈みきる前に完全に下山することを目標にやみくもに下に向かってなぎ倒された笹の上や雪道を滑っていた。すると雪解け水を集めた川に行き当たり、これを辿っていくと何とか文明にたどり着けるのではないかと期待しながらその近辺の雪道を滑っていた。雪の下には水が流れる音がしていたが、構わず滑っていると私の体重の重みで雪が崩壊し、ぼっこり空いた穴にはまりマサであればニッチもサッチもいかないような体勢になってしまった。その横では水芭蕉が私をあざ笑うかのように咲き誇っており、私に辞世の句をひねるようにうながしているのではないかという恐怖すら感じさせた。

強靭な上腕二頭筋のパワーを利用し、何とか穴から抜け出すことに成功すると遠くで獣が吼えるようなサウンドが耳に入ってきた。尾瀬一帯では近年ツキノワグマの生息数が増えており、人跡未踏のこの水辺で熊と遭遇することが懸念されたので熊よけとして「イィチ、二ィ、サン、ダ~!」や「ファイト~、イッッパ~ツ」というような奇声を発しながら前進することにした。さらに川の中をジャブジャブ進んでいるとこのまま尾瀬沼に埋もれてしまわないかというネガティブな考えも頭に浮かんだりしたのだが、ついに目の前に舗装道路が現れ、シャトルバスが行き来している文明との接点を持つことに成功した。

川から舗装道路に這い上がり、ついに念願の「エイドリア~ン!!」を発するとさらに数キロ沼山峠への坂道を徒歩で移動し、山の駅沼山峠に集散しているお~ぜ~の観光客とともにシャトルバスに乗り、御池へと帰った行った。雪解け水で冷え切った肉体を常温に戻すために尾瀬檜枝岐温泉の駒の湯(¥500)に入湯し、詳細にプログラムされた林間サバイバル過程を無事終了した栄誉を胸に尾瀬を後にしたのだった。

総高速代¥9,900

総ガソリン代 ¥6,295

総宿泊費 ¥7,400(2食、おにぎり弁当付き)

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