蔵王の帝王スノーモンスター「樹氷」遭遇ツアー with温泉

シベリアからの北西の季節風は、日本海の対馬暖流(夏は25℃くらい、冬でも10℃前後)から多くの水蒸気をもらって雪雲をつくる。雪雲は朝日連峰で上昇して多量の雪を降らせ、雪雲は山形盆地を通って、再び蔵王連峰で上昇して雪を降らせる。そのときの雲のなかは、多くの雲粒が0℃以下でも凍らない過冷却水滴になって、雪とまじりあった状態になっている。蔵王の1~2月頃は快晴の日が少なく、風向きは北西から西を示し、平均風速10~15m/s、平均気温マイナス10~マイナス15℃の吹雪の世界となる。樹氷はこうした気象条件のなかで成長し、スノーモンスターへと変貌を遂げ、世界中の観光客を凍てつく山頂へといざなっているのだ。

2017年2月18日(土)
午前10時発ANA3231便は定刻通りに成田空港国内線ターミナルから出発し、1時間弱のフライトで仙台空港に到着した。空港で名物炭火焼牛タン網焼き定食を食った後、仙台バスが運行する山形蔵王号に乗り込み、車内の「除菌バス」の看板の下、インフルエンザ罹患の恐怖を感じることなく、午後1時半前に蔵王温泉バスターミナルに到着した。

日本を代表するスキー場を要する蔵王温泉はハイシーズンを迎え、宿の予約が取りづらい状況ではあったが、楽天トラベルの検索でかろうじてひっかかった蔵王石清水料理の宿「季の里」にチェックインすると来るべき極寒ツアーに備え、日本で2番目の強酸性泉に浸かり、体の表面の異物を削ぎ落とし、おしるこで暖を取らせていただいた。

冬場の限られた期間にのみ開催される樹氷ライトアップを見物する観光客のために夕食は午後5時半からスタートとなった。さすがに料理の宿を標榜するだけあり、「粉雪降る蔵王温泉霜降蔵王牛しゃぶしゃぶ会席膳」は、完食するとしゃぶ中になってしまうのではないかと懸念されるほど美味なものであった。

宿の受付で100円引きの樹氷ライトアップ鑑賞チケット(ロープウエイ往復込みで¥2,500)を購入し、部屋付けにしてもらうとホテルのバンでロープウエイ乗り場まで送っていただいた。標高855mの蔵王山麓駅から京浜東北線の通勤電車のような満員ロープウエイに乗り込むとナイタースキーを横目に徐々に高度を上げ、約7分で標高1,331mの樹氷高原駅に到着した。さらに「恋人の聖地サテライト」にこじつけ選定されている小型のロープウエイに乗り換えると漆黒とスノーホワイトが入り混じった静寂の世界の中をさらに高みを目指すように進んでいった。

標高1,861mの地蔵山頂駅に到着した頃には肉体はすっかり凍てついていたのだが、気力を振り絞り、吹雪の屋上展望台に出て見ることにした。カクテル光線に照らされたスノーモンスターは人類の接近を阻むかのように立ちふさがっていたのだが、あまりの寒さのため、5分あまりで展望台からの撤収を余儀なくされたのだった。尚、これみよがしに掲げられている温度計は容赦なく-12.5℃を指し、観光客の気持ちを萎えさせるのに一役かっていたのだった。

幸いにも山頂駅にはレストランが開業しており、ものすごい勢いで熱風を供給するエアコン装置の前で観光客は凍った体の解凍とカメラのバッテリーの復旧に勤しんでいた。また、レストランの凍結防止ガラスの向こうにはライトアップされた樹氷原が広がっており、寒さに耐え切れない観光客は暖かい飲食物を肴に窓越しの樹氷見物を満喫することも出来るのだ。

体もそこそこ回復した頃を見計らって、窓越しに見た樹氷を間近に見るべく、意を決して外に出ることにした。

スノーモンスターはマサに手の届くほどの距離にあるのだが、その造形美はあまりにも神々しく、通常であれば寒さを忘れて見入ってしまうところであろうが、1時間も外にいると自分がスノーモンスターへと変貌を遂げる状況になることは避けられないので早々と退散し、暖かい温泉が沸く下界へと潔く下って行ったのだった。

2月19日(日)
強酸泉の蒸気による館内の金属の劣化を恐れて離れに建てられている源泉かけ流しの温泉への往復を何回か繰り返し、会席系の朝食に舌鼓を打った後、荻原健司が金メダルを与えた「季の里」をチェックアウトして再び銀世界へと挑戦することにした。

午前中のロープウエイ乗り場は整理券を手にしたスキー・スノボ客と一般観光客で長蛇の列が出来ており、ロープウエイに乗り込むまでに30分程の時間を要してしまった。雪と雲で視界が悪い中、窓越しに霧氷ははっきり見えたものの、第8回レコード大賞を受賞した橋幸夫の名曲♪霧氷♪は歌詞とメロディーが浮かんで来なかったので熱唱することはかなわなかったのだが、かろうじて首だけはかしげておいた。

昼間の山頂駅はライトアップ時より気温が上がっていることを期待していたのだが、温度計はむなしく-10.9℃を指しており、しかも強風ホワイトアウトで視界がさえぎられているため、展望台は封鎖となっていた。

やむなくレストラン内部で白い世界を堪能しようとしたのだが、昼食時間に差し掛かったレストランは食物で内部体温を上げようとしている観光客に占拠されており、やむなく短時間での下山となってしまった。尚、快晴時のスノーモンスターの光景は筆舌に尽くしがたいほど美しいのは必至で、その絶景を求めてリベンジ観光に来なければならないという決意を秘めて蔵王温泉を後にした。

帰路は蔵王温泉からバスで山形駅まで移動し、羽の生えていない新幹線つばさ号で東京へと向かったのだが、皮肉にも新幹線の車窓から見る蔵王山系は見事に晴れ渡っていたのだった。

FTBサマリー
総飛行機代 ¥10,590
総新幹線代 ¥1,340
総宿泊費 ¥36,720(二食付き、二人分)
総バス代 ¥2,600

協力 ANA、JR東日本、楽天トラベル、蔵王石清水料理の宿「季の里」

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