今年も恒例の流氷ツアー開催の時期となったのだが、例年に比べ接岸が遅れており、気まぐれな天候のため海氷の流れを予測することが困難になっている。ややもすると流氷を見られずに鈍氷で後頭部を殴られたようなショックを受けるリスクをものともせずに道東に乗り出した結果、フルコースの流氷体験に成功したのであった。
3月5日(土)
北海道の空を仕切っているAir DOとのコードシェア便である11時15分発ANA4777便に乗り込むと翼を彩るゆるキャラと冬景色の対比を堪能しながら2時間弱のフライトで女満別空港に到着した。
早速ニッポンレンタカーで車内のタバコ臭が完全に消されていないホンダのフィットをレンタルするとオーロラ号が待つ道の駅「流氷街道」へと急いだ。14時発の便の出航直前にカウンターに駆け込み、1人\3,300の大金を払って網走流氷観測砕氷船オーロラ号に乗り込むと、早速アッパーデッキで道東の冬風に吹かれることとなった。
晴れ渡った青空とオホーツクブルーの海を切り裂いてオーロラ号は外洋に進むとほどなくして目の前の水平線に一筋の白い線が現れ、次第に流氷帯へと引き込まれていった。
オーロラ号はその巨体の自重で巨大な流氷を割りながら進行し、破砕した流氷が海上で回転すると大きな波が立ち、観光客を歓喜の渦に巻き込んでいた。
遠く南東の彼方には雪を被った知床連山の絶景が広がっており、天然記念物のオオワシやオジロワシが氷の上で羽を休めていた。
船内には流氷の下で捕獲されたクリオネが狭い瓶の中で展示されており、それでも気を悪くすることなく天使の羽を広げて上下運動を繰り返していた。
約1時間の航海で港に戻り、下船すると恒例の高倉健のポスターに挨拶をして気を引き締め、道の駅で軽く物品の物色などを行っていた。
今日は快晴で絶好のサンセットが期待出来るので、取り急ぎ16:30発のサンセットクルーズのチケットを確保し、ドライブをしながら時間潰しをすることにした。網走港から北上し、約9kmくらい車を転がすと能取岬近辺に到着した。白い雪と青い空、青い海と差し迫る流氷帯のコントラストはこの時期ならではの絶景を形作っていた。
日が西に傾きかけた頃、サンセットクルーズの便は静かに港を出航した。氷の上のオジロワシに見送られ、西日を浴びた知床連山を背景にした流氷群の表情が刻々と変化していった。
沈み行く夕日の方向をふと見やると時間とともにオレンジ色が濃くなって行き、乗客は運動会のように船内を移動し、各自のベストスポットを探すのに躍起になっていた。
モッズコートに身を包んで防寒対策を施している中国人観光客もここがまるでSEKAI NO OWARIではないかと間違いなく感じていることであろう。
日が沈み、ドラゴンナイトが近づくと船はライトを灯し、ピンポイントで流氷を薄緑に染めていたのだが、船の速度に負けて緑氷はデジカメで補足することは出来なかった。
幻想を胸に刻みつつ、このクルーズの満足度は100%天候に左右されると思いながら港を後にすると今日の宿泊地である川湯温泉に向かった。
夜7時前に川湯第一ホテル忍冬にチェックインを果たすと金属を溶かすほどの強酸性硫黄泉にどっぷりつかって贅肉をそぎ落とし、北の大地の恵みをふんだんに使っている豪華夕食を馬食して帳尻を合わせていた。
3月6日(日)
忍冬と書いて「すいかずら」と読ませるのだが、今朝はその冬を忍ぶ精神を実践するためにまずは川湯温泉の起源である硫黄山で硫化水素を浴びて、そのままシュ~と摩周湖を目指したのだが、川湯温泉から摩周湖に直結する山道は凍結して通行止めになっているので迂回を余儀なくされた。
幸い神秘の湖摩周湖には霧がかかってなく、その神秘的な姿を堪能することが出来たので土産物屋で用を足すと、しれっと知床方面まで足を延ばすことにした。
お昼くらいに道の駅うとろ・シリエトクに到着し、幻の鮭と言われる証明書付きの鮭児が、一尾¥49,500で取引されている現実に衝撃を覚えたので頭を冷やすために2月5日~3月12日までウトロ漁港で開催されている知床ファンタジアの会場に移動し、陸上自衛隊が設営した流氷神社に次のアクティビティの無事を祈願した。
知床のシンボルであるヒグマよりも数倍大きいゴジラ岩の麓で営業しているゴジラ岩観光が流氷夕遊ウォーク(\5,000)を1日3回開催しているので、13:30から始まるウォークに参加させていただいた。事務所で服の上から脂肪や筋肉を強力に圧迫するドライスーツを着込むとバンに乗って港内の流氷密集地に向かった。
堤防を超えて滑り台のように雪上をすべると足元は海を埋め尽くす流氷がひしめきあい、マサにごつごつした陸地のようになっていた。今日は午後から雨模様で気温も氷点下まで下がっていなかったので溶け始めた氷はいとも簡単に崩壊し、参加者は氷の海に落ちてしまうのである。
午前中に「世界ふしぎ発見」のミステリーハンターを案内したと自慢しているガイドについて歩いていると、先週のブリザードの影響で巨大な流氷がぶつかり合って砕けて集積している状態がそこかしこに見られ、積み重なった流氷をよく見ると青白く輝いてまるでクリスタルひとし君人形のように輝いていた。
海中への落下とドライスーツで自由の効かない体で腕と腹筋を使って氷の上に這い上がる運動を数回繰り返しながら沖合へと歩を進めた。沖合まで進まなければならないのは港内に滞留している氷は日に日に汚れてくるので、沖合に行けば行くほど新鮮できれいな氷を体験することが出来るからである。
1時間程のウォークを終えると軽い腹ごしらえのために道の駅に戻り、ファストフードのメニューで馬と鹿ミンチを合い挽きにしたバーガーを探したが、見つからなかったので鹿肉バーガーと熊肉バーガーをそれぞれ食してみることにした。知床のジビエが作っているはずのバーガーは特に癖はなく、何も知らされなければフレッシュネスバーガーと大差はないように思えたのだった。
熊肉を食った勢いでしれとこ村の熊の湯に乗り込み、冷えた体にナトリウムー塩化物・炭酸水素塩泉の成分を取り込むと瞬時に体が回復したので高台からの知床の海の光景を目に焼き付けて女満別空港への帰路についた。
Air DOとのコードシェア便18時30分発ANA4780便は、2人の乗客が運行安全規定に合意しなかったため約5分の遅れとなったが、定刻20時25分には羽田空港に到着、そのまま流氷のように気ままに流れていった。
FTBサマリー
総飛行機代 \49,080
総宿泊費 \21,600(2食付き、2名様)
総レンタカー代 \9,936
総ガソリン代 \2,012
協力 ANA、Air DO、ニッポンレンタカー、楽天トラベル、道東開発観光(株)、ゴジラ岩観光、第一管区海上保安本部海氷情報センター