ボンよ、イチローが古巣マリナーズと契約したのは2018年3月7日のことであった。この契約発表がなされるや否やFTBは他の旅行代理店に先駆けてゴールデンウィークのシアトルMLBツアーを企画し、即日航空券の発行まで行うという電光石火の早業を見せたのであった。ついでにまだ行ったことがないカナダのバンクーバーにも立ち寄るオプション付きやった。
2018年5月2日(水)
午後9時50分発NH118便羽田発バンクーバー行きに乗るべく、7時過ぎに空港に着いたのはよかったのだが、ANAのカウンターでカナダ入国の電子ビザは取得していますかと聞かれ、自信を持ってしていないと答えたところご丁寧にとなりの椅子席に案内され、タブレットを渡されて無事にeTA (Electric Travel Authorization)をサクッと取得出来たのであった。
ANAのSUite Loungeで少しは高級なはずの和牛ステーキの小さいやつを食して夕食とすると機内では頭の中を3回転半くらい回してひたすら意識を失うことに集中し、同日午後2時過ぎには浅田真央やキム・ヨナも来たことがあるバンクーバー国際空港に到着した。空港からスカイトレインなる鉄道に乗り、わずか20分程度でダウンタウンの中心部に侵入するとグランビル・ストリートという南北を貫くメインストリートを南下して予約済みのHoliday Inn & Suite Vancouver Downtownに無事にチェックインと相成った。
初春のブリティッシュ・コロンビアの晴天につられるようにホテルから足を踏み出すとグランビル・ストリートをさらに南下してグランビル・アイランドを見下ろす大橋を渡り切り、ぐるっとUターンしてバンクーバー有数の観光地に成り上がっているグランビル・アイランドへと足を踏み入れた。
グランビル・アイランドはグランビル・ストリート(大橋)の真下にある小さな島で、昔は工場街として発展したそうだが、一旦さびれた後、観光スポットとしてV字回復を果たした楽しいことが満載の場所である。船着場には大小様々のクルーザーが繋留されており、釣ったばかりの魚を洗浄しているおっさんやレストランで自ら食材になろうとしているかのように振舞っているいいカモも見受けられた。
最大の見所は何といってもグランビル・アイランド・パブリック・マーケットで新鮮な魚介類、肉、野菜、果物、メープルシロップのような地元の特産品がそこそこの価格で売られており、地元の住民だけでなく、観光客も遠慮せずに財布の紐を緩めることが出来るのである。
夕飯時になったのでマーケット内のフードコートでファストフードを掻き込むか、洒落たレストランでスローフードを良く噛んで食べるべきか迷ったのだが、ツアー初日ということもあり、消化器官への負担も考えてスローを選択することにした。Fish Companyという新鮮な魚しか扱ってないはずの小洒落たレストランの窓辺に席を取り、地元のビールと今日のスープ、生牡蠣、魚の3点盛をじっくりと味わい、優雅なディナーを十分に堪能させていただいたのだった。
腹ごなしのために再びアイランド内をぶらぶら歩いていると現役の工場らしき場所に行き当たった。そこの設備には斬新なポップアートが施されており、多くの観光客がゲートの前で足を止めていた。便所を借りるために再びマーケットに戻ったのだが、午後7時が終了時間ということで、重たい膀胱を刺激しないようにさっき飯を食ったばかりのレストランに引き返し、担当してくれたウエイトレスにお願いして個室に駆け込んだのだった。
5月3日(木)
時差ボケの影響を受けずに朝まで生眠り出来たのでホテルで高値の朝食を取った後、近場の観光に繰り出すことにした。グランビル・ストリートを北上し、途中目抜き通りのロブソン・ストリートを闊歩し、ウォーターフロントへ向かった。
バンクーバー・ハーバー・フライト・センターで水上飛行機の離着陸を見物し、シーウォール・ウォーター・ウォークを「ウォ~!」と叫ばずに歩いてバンクーバー最強の観光地であるスタンレー・パークへ向かった。
スタンレー・パークはダウンタウンの北西に広がる広大な自然公園で、どの観光ポイントから手を付けて良いかわからなかったのでとりあえず公園入り口のInformation近くでアイドリングしている馬車で1時間の観光(CAD45)をかますことにした。装備してないはずのシートベルトを締めるようにとの洒落でスタートした馬車ツアーはガイドギャルの弾丸トークでバンクーバーの歴史や近辺の見所情報が語られた。園内の最大の見所である広場で5分間の猶予が与えられ、観光客は馬車を降りてトーテムポールとの記念撮影に躍起になっていた。
馬糞の香りに慣れた頃合に1時間のツアーも終焉を迎えたので、馬車を降りて今来た道を馬車馬のようにむやみに歩いて見ることにした。園内を流れる細い川にはSALMON CROSSINGというサケの繁殖地としての復活を期する黄色看板が掲げられ、サケとの衝突を避けるような注意が促されている。海沿いのビューポイントには一見コペンハーゲンにある世界三大がっかり世界遺産の人魚姫に見える人間姫(Girl in a Wet Suit Statueという)が岩の上にインストールされており、園内の自然に対するひとつのアクセントになっているようであった。
広い園内をすべて網羅出来たわけではないが、この時期は総じて花々が美しく咲き誇り、散策や休息には最適の観光地であることは疑いようもない事実であった。
スタンレー・パークからダウンタウンに戻る散策路には珍しい形をした立ち木や倒木が写真撮影スポットになっているのだが、私が一番印象に残ったのは用途不明の足長高床式小屋であったのだ。
散策も一段落したところで地元のビール醸造所系レストランでフルーティな地ビールと揚げ物をつまんだ後、Canada Placeという比較的新しげなくつろぎ広場をさまよった。野生のがちょうがCanadian Familyとして認定されているこの場所では卵をあたためているがちょうに「がっちょ~ん!」というような刺激を与えてはならないため、静かに退散させていただくしかなかったのだ。
休息を取るためにホテルに一旦戻り、何気なくYahoo Newsをチェックするとミズノプロの黒バットで後頭部をジャストミートされたような衝撃的なニュースがスポーツ欄を埋め尽くしていた。シアトル・マリナーズはイチローがジジロ~になるまで選手として使い続けると信じて疑わなかったのだが、今年は選手登録を外して会長付き特別補佐に就任するというではないか!このニュースが出た瞬間にGWイチローv.s大谷観戦ツアーを組んだ大手旅行会社である日本旅行、近ツリ、JTB、FTB等には抗議の電話が殺到し、「てるみくらぶ」の二の舞になるのではないかと懸念されたのだが、いずれにしても今季のレジェンドと二刀流の共存共栄は見られなくなってしまったのである。
失意のうちにホテルを飛び出し、チャイナタウンで暴飲暴食をして溜飲を下げようと思ったのだが、適当な場所が見つからなかったのでバンクーバー発祥の地であるガスタウンで蒸気時計を眺めながらガス抜きをするしか鬱屈する気持ちを静めるすべがなかったのだ。
5月4日(金)
昨日の快晴とはうってかわり、今朝はイチローロスとともにどんよりとした空気に支配されていた。宿泊しているホテルはシアトル行きバスの発着地になっているので9時半発のバスに乗り、国境を超えて一路シアトルを目指した。シアトルダウンタウンにあるコンベンションセンターに1時半頃到着するとHoliday Inn Seattle Downtownにチェックインを果たし、早速シアトル最強の観光地であるパイクプレイスマーケットの様子を見に行くことにした。
屈強な男が魚番をしている脇を通り過ぎて早めの夕食をとるためにとあるシーフードレストランにしけこみ地元のIPAビールでCrab Biscuitやサーモンソテーを流し込んで空腹感を解消し、Pike Streetにある1号店ではないスターバックスでコーヒーを飲みながらしばしくつろぎ、球場へ行く時間を見計らっていた。
シアトル・マリナーズの本拠地セーフコ・フィールドに到着したのは試合開始1時間前の午後6時くらいであったろうか。球場を彩る外壁にはまだイチローの写真が残されていることに安心して入場すると三塁側内野席の前方に席を取った。永久欠番選手の名前をあしらったホームプレートが3枚遠巻きに眺められたのだが、4枚目の51番の掲示が遅くなればなるほどイチローのライフが伸びるはずであろう。
今夜はスターウォーズナイトということでスターウォーズの人気キャラクターが試合前のグラウンドを闊歩しており、選手紹介の大型ビジョンもスターウォーズバージョンが徹底されていた。
イチロー目当てで来場した日本人観光客の救いとなったのはエンゼルス大谷の天使のような活躍であった。5番指名打者大谷がコールされると場内にはこの日最大のブーイングが沸き起こり、エンゼルスと最後まで獲得を争ったマリナーズが逃した魚の大きさを思い知らされた。エンゼルス入団の決め手となったのはやはり二刀流をやりたいという大谷の申し出に対してエンゼルスのマイク・ソーシア監督が「そ~しや!」と気持ちよく承諾したことであったろう。
右打者の強打者がずらりと並ぶエンゼルスの打線の中で左打者の大谷が5番に座ることで打線のバランスが格段によくなっている様子で、この日の大谷はクラブハウスで見ているはずのイチローにいいところを見せようと発奮して4打数2安打の活躍でチームの勝利に見事に貢献したのであった。
大谷の活躍よりさらに大きな出来事が起こったのは試合中盤のエンゼルス4番打者のアルベルト・プホルスの打席であった。イチローと同じ2001年にメジャーデビューを果たし、同年のナショナルリーグの新人王を獲得した長距離打者のプホルスはこれまで2999安打を重ねており、シアトルで3000安打を打つことが確実視されていたので多くのエンゼルスファンが球場に駆けつけていた。
2打席目でライト前へ渋いヒットを落としたプホルスの元にエンゼルスの選手全員が駆けつけ、祝福のために試合は中断となったのだが、次打者の大谷はその喧騒をものともせず、レフト線にツーベースヒットを放ち見事に花を添えたのであった。
試合途中で球場内通路をうろつき、イチローグッズがもはやディスカウント価格で販売されているのではないかとひやひやしながら歩き回っていたのだが、それどころかイチローの栄光の歴史を彩るコーナーが開設され、そのレジェンドぶりに益々拍車がかかっている様子だったので安心して球場を後にした。
5月5日(土)
シアトルに遠征に来ている大谷率いるエンゼルスの選手達はまぎれもなく「ホテルニューオータニ」クラスの高級ホテルに宿泊しているはずであり、それらをしらみつぶしにあたれば大谷の出待ちをしてサインを入手することも可能かも知れなかったのだが、今朝もやはりパイクプレイスマーケットでまったり過ごすことにした。お決まりの観光コースとなっている1912年開店のスターバックス1号店はすでに長蛇の列をなしていたので入店を断念して海沿いの景色を眺めていた。
ブランチを取るために比較的すいてそうなシーフードレストランに入ってお約束のシーフードチャウダーやサーモンバーガー等を賞味させていただき、短い時間だがシアトルの休日を十分に満喫させていただいた。
今日の試合は午後6時10分開始ということで昨日より早めに球場に到着したのだが、翌日の先発投手としての準備のためにエンゼルスは大谷ロスの打順を組むことを余儀なくされていた。試合はシーソーゲームの展開であったが、延長戦の末マリナーズがサヨナラ勝ちを収めたので今夜はシアトルファンが溜飲を下げる番となった。
シアトル・マリナーズにはイチローだけでなく、過去数多くの日本人選手が在籍した実績がある。レフトセンター間の客席の下にブルペンがあり、その近辺のThe PENというコーナーで過去のリリーフ投手の栄光のパネルが展示されているのだが、、2000~2003年に在籍し、129セーブをあげた佐々木も一角に名を連ねており、その大魔神ぶりがシアトルファンの心に深く刻まれていることが確認出来たのだった。
5月6日(日)
会長付き特別補佐という要職を手にしたイチローは来年東京ドームで開催されるマリナーズの開幕戦出場を念頭に、それまでに劣化しないように冷凍保存されるようであるが、本来は今日この日に投手大谷とイチローの対決を期待して多くの日本人観光客がシアトルを訪れている。大谷も怪我の影響で登板日がずれたりしたのだが、何とか今日のデーゲームでマウンドでの勇姿を見せるということで舞台は整ったのである。
三塁側観覧席、前から6列目、マサに大谷フロントと言っても過言ではない良席に陣取ったFTBご一行は大谷がベンチから出てくるのを一日千秋の思いで待ち構えていた。試合開始30分前についにその193cmの巨体が姿を現すと三塁側のにわか日本人街は大歓声に包まれた。
レフトの芝生の上でウォーミングアップを開始した大谷はマサに貫禄十分でこれから始まるShotimeに向かって球場の雰囲気は徐々に高まっていった。
一方、マリナーズの先発投手も最大の強敵と言えるThe Kingの順番となっている。サイヤング賞をはじめ多くのタイトルを獲得しているマリナーズの絶対エース、フェリックス・ヘルナンデスの登板日には三塁側アルプススタンドはKING’S COURTに変貌を遂げ、ヘルナンデスが三振を取るたびに多くの歓声が上がる手順となっているのだ。
午後1時10分にヘルナンデスの一投で始まった試合であったが、ヘルナンデスの苦手な時間帯はヒルナンデス!とでも言い訳するかのように初回に2本のホームランを食らってエンゼルスが先行した。早速援護をもらった大谷はこれまでの登板とは投球パターンを変えてカーブやスライダーを増やし、強打マリナーズ打線を手玉に取っていた。
大谷の快投を援護したのは、すでに2回のMVPを獲得した実績のあるスーバースター、マイク・トラウトであった。守備ではセンター前に飛んできた打球に猛然とチャージし、イチローをしのぐレーザービームで三塁を陥れようとしたランナーを見事に刺し、打つほうではノックアウトされたヘルナンデスに代わったリリーフ投手の出鼻をくじく、虹鱒のような特大のアーチをレフトにかけて点差を5点に広げたのであった。
エンゼルスがワールドシリーズを制した2002年にはティム・サーモンという主軸打者がチームを牽引していたのだが、このチームは魚系の選手が活躍するとチーム状態が良くなる傾向にあるようなのでサーディーンやシャークと言った名前の選手ををトレードで釣ってくれば最強のチーム構成が約束されるはずであろう。
快投を続ける大谷は99マイルの速球と88マイルのフォークボールが冴え渡り、6回まで無得点に抑えたのだが、疲れの見え始めた7回に四球とホームランで2点を献上した後、リリーフ投手にゲームを託すこととなった。
8対2で勝利を飾ったエンゼルスの選手は三塁側ベンチに引き上げ、ベンチ前ではヒーローインタビューも始まった様子で大谷もこの場に呼ばれるはずだと期待する多くの日本人が詰め掛けていたのだが、大谷はすでにチェックアウトしたのか、再びグラウンドに姿を現すことはなかったのだ。
シアトルでのMLBツアーも一段落となったのであらためてダウンタウンに目を向けると以前から存在した不安定なビルはともかくとして新たな高層ビルやユニークな建造物が続々と誕生している様子が目についた。今ではこれなくしてショッピングは語れないほどの存在になったAmazon.comはブラジルのアマゾン奥地ではなく、シアトルに本社を構えており、レジがないAIコンビニと言われているamazon GOの一号店もダウンタウンで開業している。
早速店舗を訪ねて見ると入り口に立つサポート要員にスマホにアプリのインストールを促され、改札にバーコードをかざしての入店となった。適当に買い物をすると自身のamazonアカウントに買い物情報が表示され、金額が引き落とされる仕組みになっているのだった。レジがないということで万引きが懸念されるかも知れないが、アプリにより厳格な入場規制が敷かれているのでダウンタウンを寝ぐらにしているホームレスには門戸は開かれてないようであった。
シアトルのシンボルと言えば1962年の万国博覧会の時に建立されたスペースニードルである。米流通天閣と言っても過言ではないコテコテ系のタワーは今なお多くの観光客を集めており、上階の展望台にレストランでもあれば記念に飯でも食っていこうと思ったのだが、カフェしかないということだったので断念した。その代わりに近辺の人気がありそうなレストランに首尾よく入店し、味噌付き焼き牡蠣やビフテキ、チキン等でシアトルでの最後の晩餐を堪能させていただいた。
5月7日(月)
日本人ツアー客率の高かったHoliday Innをチェックアウトするとダウンタウンからリンク・ライト・レールに乗り、シアトル・タコマ空港に向かった。シアトルからバンクーバーに飛び、バンクーバー空港で名物メープルシロップを仕入れると午後4時15分発NH116便の機上の人となった。
5月8日(火)
機内エンターテイメントで日曜劇場「陸王」を見ながらイチローもあきらめずに走り続けるはずだとの思いを胸に流れ解散。
FTBサマリー
総飛行機代 ¥134,590
総宿泊費 CAD558.89、USD617.76
総バンクーバースカイトレイン代 CAD9.1
総バンクーバー・シアトルバス代 USD43
総Metro代 USD15.25
総リンク・ライト・レール代 USD3
協力 ANA、Air Canada、IHG