暖春の影響で日本列島の桜前線の進行が異常に速かったのだが、辛くも山梨の桃源郷とともに富士桜と五重塔のマリアージュを堪能することが出来たものの何か物足りないような力不足を感じていた。
例年1月に参拝させていただく邦人の心のふるさと伊勢神宮であるが、今年は内宮の駐車場への道筋の尋常ならざる混雑により途中でのドロップアウトを余儀なくされ、後日のリベンジ参拝を誓いながら一旦お伊勢参りを強制中断させていた。
花見シーズンの喧騒が去るのを待ち、春風に乗ってやってきたインバウンド観光客の大群を横目に日本有数のパワースポットへと満を持して舞い戻るツアーの火蓋が今ここに切って落とされたのだ。
2023年4月7日(金)
午後1時過ぎにミナミノ~ゼと言われる八王子みなみ野の自宅を出ると高尾山ICから圏央道に入り、新東名、伊勢湾道路を経て渋滞ノイローゼに苛まれることなく順調に自家用車を走らせると5時過ぎに本日の宿泊地であり、お伊勢参りの定宿に指定されている榊原温泉湯元榊原館に到着した。
全国旅行支援制度の活用による宿泊費の割引のみならず「おいでよ三重旅キャンペーン」の¥2,000クーポン2枚を握りしめてチェックインを果たすと早速夕食会場に向かった。榊原館では美と健康をテーマに献立作成しており、「温泉野菜蒸し」という旬の野菜を効能の高い温泉で蒸しあげたものが定番となっているのだが、今回はそれに加えて地物一番「特選松阪牛」が食卓を彩った。
ワールドベースボールクラシックで頂点に舞い戻ったサムライジャパンの活躍は記憶に新しいところだが、第1回、第2回のWBCで連続MVPを獲得したレジェンド松坂大輔が解説者の仕事に飽き足らずに準決勝の始球式に登場した時の対松坂桃李比2倍に膨れ上がった横幅を誇る堂々たる体躯に衝撃を覚えた視聴者も多かったことであろう。夕食の松阪牛のラインアップにイチボが並んでいるのを見て、高卒でデビューした平成の怪物がイチローから連続三振を奪った後のヒーローインタビュー時に発せられた「自信が確信に変わった」という流行語が脳内でリフレーンされながら松阪牛をレアで堪能させていただいたのだった。
「お伊勢さん湯ごりの地」としてその名を轟かせている榊原温泉の歴史は古く、約2000年前、伊勢の地に天照大神が鎮座され、皇女・斎王が神宮を祀ってきた。伊勢神宮の参拝前には、天皇たりとも身を清めなければならない。奈良の都から伊賀を抜け、布引山(青山高原)を越えた榊原が伊勢の入口にあたり、ここに湧く温泉で「湯ごり」をして身を清めることが、当時の正式な参拝方法であった。
また、七栗の湯との異名をとる榊原温泉であるが、平安時代の才女、清少納言の随筆「枕草子」の第百十七段に、「湯は七栗の湯、有馬の湯、玉造の湯」という一節がある。七栗の湯は京の都で温泉の代名詞となり、特に恋の病を癒すいで湯として、鎌倉時代から室町時代にかけて多くの歌人に詠われた。
現代ではまろみ源泉としてそのパワーは衰えることなく、温泉宿・ホテル総選挙でうる肌部門全国エリアランキング第1位の座を長年防衛している様子が見て取れた。
館内には源泉神社が祀られ、その源泉温度31.2℃は飲用にも適しており、その強力な温泉力により体の内外からデトックス効果を高めることが出来るため、神宮と対峙するころには完全に毒抜きされた状態となっているはずである。
4月8日(土)
早朝から榊原温泉での湯ごりをゴリゴリと満喫すると腹が減ったので食事会場のダイニング厨草子で健美食を完食したのだが、温泉の効能も相まって呼吸が「全集中」に高められていることに気づかされた。なるほど、そこには米俵とともにそれを炊き上げる竈門が奉られており、炭治郎紋様を彷彿とさせるはんてんに身を包むと「鬼滅の刃」のような研ぎ澄まされた感覚も身に付くのであった。
さらなるパワーアップを求めて木へんに神の字が示すように神と人との境界を表す榊原の地を探索することにした。この地は自生する榊枝を井に浸し伊勢神宮に献上されたことから、榊原と呼ばれるようになったとのことだが、その井が射山神社鳥居の正面にある長命水である。
また、本殿手前にあるのが、大国主命の別名大黒様が打ち出の小槌を持った像で、ピンク色ののぼりの間に鳥居があるのだが、ここが縁結びの強力パワースポットとなっている。マサに恋柱 甘露寺蜜璃に匹敵するパワーを持っている聖地と言えるであろう。
射山神社の境内には驚くほどの高木や古木が立ち、歴史の長さを感じることが出来るのだが、神社の前の道沿いにも生命力の塊のような古木の巨大な根が顔を出しているのだ。
榊原の地を後にしたものの、いざお伊勢参りという気分をさらに高めるために、伊勢神宮外宮の参道に鎮座している「柄杓童子」のひしゃくでケツをたたかれながら道を切り開くことにした。
伊勢神宮内宮の近隣に位置しているものの伊勢神宮とは一線を画しているような存在感で多くの参拝者が訪れる伊勢屈指のパワースポットである「猿田彦神社」に立ち寄ってみた。ここは天孫降臨の案内役を担った、物事を良い方向へ導いてくれる道開きの神「猿田彦大神」を祀る由緒正しい神社であり、境内には、芸事の神様を祀り、著名人からの信仰もあつい佐瑠女神社があり、恋みくじやお守りも人気を博している。尚、個人情報保護法の観点から、願かけ絵馬に貼るためのラベルも常備されているのでどんなに恥ずかしい願い事も気兼ねすることなく記入出来るのだ。
本殿の目の前に方位石(古殿地)が鎮座しているのだが、これは「みちひらき」の御神徳を表す八角形の石柱で、かつて御神座のあった神聖な場所に位置しており、触ると願いが叶うかも知れない霊験あらたかな代物である。
たから石は形が宝船に似ていることから名付けられたもので、白蛇が石の上に乗っているように見える縁起のいい石で参拝者に金運を与えてくれる可能性を秘めたお宝である。
神社の裏手にひっそりと水が張られているのは「御神田」で毎年5月5日には豊作を祈って早苗を植えるお祭り「御田祭」が執り行われることになっている。
御神田を見守る猿の像に別れを告げ、猿田彦神社から去る決心をしたものの、次の訪問先はなお伊勢神宮ではなく二見興玉神社とさせていただいた。
荒海に面するこの神社は御祭神に猿田彦大神を祀り、縁結び・夫婦円満・交通安全などにご利益のある場所とされている。参拝者を出むかえるのは要所要所に配置されたカエルのオブジェであり、それらは恭しくも猿田彦大神のお使いとされる二見蛙(無事にかえる、貸したものがかえる)として重要な役割を果たしている。
風光明媚な境内には「さざれ石」、「天の岩屋」といった見どころもあるのだが、私が気になったのは初穂料300円で参戦出来る輪投げに他ならず、私が放れば大谷投手よりも大きな変化のスライダーとなって神様の腰さえ引かせてしまう恐れがあるので遠慮しておいた。
ここでの最大の見どころは夫婦のように寄り添って顔を出す大小の岩で普通に「夫婦岩」と命名されているのだが、野球ファンの感覚からするとそれらはあくまでも「オール阪神・巨人」のシルエットに他ならないのである。
禊橋を渡って先に頭に浮かんでしまった戯言を祓い清め、本日投宿する予定の志摩方面に車を走らせた。
今日は思いのほか気温が低く、海風で体が冷えていたので午後3時前には宿泊先であるセラビーリゾート伊勢志摩に到着した。ここでのセラピーは♪出来るだけ嘘はないように~♪水平線を眺めながらの露天温泉の貸し切り入浴であるのだが、伊勢海老やアワビといった豪華海鮮料理のエキスを体内に吸収して満を持して神宮に対峙する準備を整えることが出来るのだ。
4月9日(日)
温泉、食事に次ぐここでの第3のセラピーは午前5時30分に上り始める太陽とのご対面である。この場所で日の出の絶景を目にすると♪水平線が光る朝にあなたの希望が崩れ落ち♪るような悲劇は決して起きないと断言出来るのではなかろうか?
当館の社長が作った多品種健康朝食でセラピーを仕上げると宿にほど近い安乗岬を散策することにした。ここは的矢湾入口の岬で、江戸時代にはすでに幕府直営の灯明台があったそうだ。風光明媚な岬の先は断崖と荒磯で、海女の漁場となっている一方で、灯台に至るまでの道のりにはイベント広場やおしゃれなカフェもあるので天気のいい日には日がな一日いても飽きない場所であろう。
「古事記」の中に出てくる有名な神話で、天照大神が須佐之男命の悪事を戒めるために岩戸の中に隠れてしまわれた伝説にちなんだ洞窟を「天の岩戸」と呼び、この伝説の地は日本各地にあるのだが、伊勢神宮内宮の南東側に位置し、周囲は杉の大木がうっそうと茂り、凛とした霊気に包まれている恵利原の水穴はこれぞマサに「天の岩戸」と呼ぶにふさわしい聖地であろう。
名水百選に選定されている清らかな水は飲用だけでなく、滝行にも供せられており、それ用の更衣室さえ整備されている念の入れようであった。
「天の岩戸」のさらに奥地には「風穴」も口を開けており、何とかここまでは参拝出来たのだが、あまりのパワーに大腸が刺激されすぎたため「便の個室」へ早く駆け込む必要が生じたため、「猿田彦の祠」にはたどり着くことが出来なかったのだった。
腸内環境が落ち着いた頃を見計らって今回のツアーのメインイベントであるお伊勢参りに馳せ参じることとなった。あらためて説明するまでもあるまいが、伊勢神宮は日本人の心のふるさとといわれ、「お伊勢さん」「大神宮さま」とも呼ばれ、親しまれており、明治神宮とは一線を画している。神宮球場を本拠地とする東京ヤクルトスワローズも伊勢打撃コーチを招くなどして本家の大神宮さまに近づこうとしたようであるが、いせ~(威勢)のいい結果とはならなかったようだ。
野球場は持っていないが、伊勢神宮の正式名称は「神宮」であり、宇治の五十鈴の川上にある皇大神宮(内宮)と、山田原にある豊受大神宮(外宮)の両大神宮を中心として、14所の別宮、43所の摂社、24所の末社、42所の所管社があり、「神宮」はこれら125の宮社の総称でもあるのだ。
参拝のしきたりであるが、「外宮先祭」という言葉があり、参拝に限らず行事ごとに関しても外宮から行うことが習わしとなっているので外宮の無料駐車場に車を止めてまずは天照大御神のお食事を司る神の豊受大御神に謁見させていただくことにした。
式年遷宮の資料館であるせんぐう館を横目に大鳥居をくぐり、亀石の頭を踏まないように注意しつつ、例年の参拝通り、「風宮」、「多賀宮」、「土宮」、「正宮」をすべて網羅させていただいた。
今年の1月には外宮のみの参拝で強制終了となってしまっていたのだが、これは「片参り」と呼ばれ、よくないこととする説もあるそうだ、外宮から内宮へと向かう車の通行量も落ち着いていたので念願の五十鈴川沿いの有料駐車場に車を止めて鯉のぼりに見送られながら内宮へと歩を進めた。
神様の通る道を避けながら右側通行の宇治橋を渡り、何らかのイベントの名残であるはずの弓道会場を横目に五十鈴川の御手洗場に向かった。このあたりには小魚と小銭が同居しているのだが、手水舎がない時代のみならず、いまだにこの川で手をすすいでいる人も数多くいるのでここでの賽銭は慎むべき行為であるはずだ。
神宮に自生する木々一本一本からすさまじいパワーを感じながら、滝祭神、風日祈宮、荒祭神、正宮と順に参拝させていただき、先の「片参り」を解消して肩の荷を降ろすことに成功した。
インバウンド観光客であっても日本の神社では「二礼二拍手一礼」の作法が頑なに守られるのであるが、私も大谷のバックナンバーである17を思い浮かべながら♪どんなときも優しくあれるように♪という願い事でプーチン率いるロシアをけん制しておいたのだ。
伊勢神宮の御神札(お札)を総称して「神宮大麻」というのだが、今年も大角祓(授与大麻)をいただいて運勢のアップデートをさせていただいたつもりになった。尚、神宮大麻は全国の神社を通して頒布されるものでもあるのだが、FTBでは必ず内宮でいただくことが習わしとなっているのだ。
宇治橋を支える木組みの造形美を胸に刻み伊勢神宮を後にして内宮参道に差し掛かったのだが、ここでは常に人いきれで辟易とさせられる。
人込みをかき分けてたどり着いた先で肉付きのよさげな牛と目が合ってしまったので運命の糸に引かれるように松阪まるよしに入店し、すかさず牛鍋丼を牛食して遅まきながらWBC優勝の祝勝会をさせていただき、伊勢うどんも赤福もスルーして流れ解散となった。
FTBサマリー
総高速代 ¥18,790
総ガソリン代 ¥10,206
総宿泊費 ¥78,300(2泊分、2人分、2食付き)
協力 楽天トラベル